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中川秀樹 研究室

はじめに

工学者は、様々な材料や条件、環境を考慮し、より良いものを作り上げるために長年にわたり研究、努力し、ついに皆さんのもとに届く製品を作り上げていきます。しかし、いかに長年にわたった研究といっても、ヒトには限られた寿命というものがあります。また、ヒトが知識を積み上げ、継承していく営みを続けてきたといっても、それは生物全体の歴史から見れば、ほんの短い時間にすぎません。皆さんの周りを見回して下さい。そこには、ありとあらゆる多様な生物が存在しています。これらはいわば、進化の歴史が、長い、長い時間をかけ、世に送り出した製品です。複雑な環境下で、生き残り、子孫を残し繁栄していくにはどうあるべきか、進化は気の遠くなるような試行錯誤の繰り返しで、今ある生物たちを創り上げてきたのです。ですから、その生きる仕組みの中には、我々が何かヒトの役に立つ、新たなものづくりを考えた時、学ぶべき材料がいっぱいつまっているはずです。その仕組みを明らかにし、工学的に応用することを目指す。これが、九州工業大学で、私の様な実験動物学者が働いている理由です。

研究テーマ概要

【ニホンアマガエルHyla japonicaの着地行動戦略の研究】

動物は動き、そして行動します。生き残りのためには、複雑な環境下で、危険から身を守り、必要な行動を実行しなければなりません。私たちは、そのために多くの動物が解決しなければならない問題として衝突回避に着目しています。衝突回避行動には大きく分けて二つあると考えています。一つは、静止している動物が、接近してくる危険、天敵を回避する行動です。そしてもう一つは、動物自らが、着地などのために静止物体に向かって接近する際に衝突を避ける行動です。私たちは、これら2つの行動を制御するには、それぞれの状況に適したパラメータがタスク依存的に利用されているという仮説を立てました。つまり、前者においては、敵の行動は予測不可能で、残された時間はわずかですから、正確なタイミングというよりも、より早く、確実に逃げられるように、情報処理の負荷が少ない網膜像の閾値θを手がかりにして逃避行動を開始していると考えます(θ戦略)。それに対して後者では、自分の行動は自分で決められますから、衝突までの時間的余裕をつくることができます。そこで、より厳密なタイミングの制御が可能となる残り時間τを利用した、より計算負荷の高い情報処理を行い、着地準備行動を開始していると考えます(τ戦略)。これまでに、私たちの研究室では、ウシガエルを用いて前者の衝突回避行動が、確かに網膜像の閾値を手がかりに発現していることを証明してきました。しかしながら、ウシガエルは、自ら積極的に物体に接近していく行動をとることはあまりなく、後者の行動解析には不向きな動物です。そこで、最近、私たちの研究室では、枝から枝へと見事なジャンプを繰り返すアマガエルに着目しています。このカエルは、同時に接近物体からもジャンプして逃げますから、同じ動物種を用いて、2種類の衝突回避行動のタスク依存性を調べることを可能にしてくれます。

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【ウシガエルRana catesbeianaの衝突回避行動における行動計画の検証】

私たちは、通常何か行動を起こす時に、実際にその行動を始める前に、頭の中で、計画をたてて、それに従って行動を実行するということをします。どこかに旅行に行くときに、実際に電車に乗る前に、私たちは頭の中で、その旅程を組立て、その通りに行動し、目的地に向かいます。この時、私たちの頭の中では、何が起きているのでしょうか?リアルタイムの感覚入力とは独立に進むこの情報処理の正体はどのようなものなのでしょうか?
この様な大変高度な情報処理は、私たちヒトや、その親戚であるサルの仲間に与えられた特権なのでしょうか?実は、最近の研究は、決してそうではないという可能性を教えてくれます。ごく最近、これまで感覚入力の順次処理によって行われていると説明されていたトンボの餌追跡行動が、実は餌の飛行軌跡予測と計画にもとづく可能性が示されました。鳥や昆虫の仲間もその萌芽的な能力を持っているという報告がされているのです。私たちの研究で、実はカエルも、行動をあらかじめ計画できるということが分かってきました。私たちは、カエルが2つの異なるタイプの行動計画を実行できるということを発見しました。第1は、行動開始前に、衝突回避ジャンプの回転角度に応じてその回転速度をあらかじめ計画することで、逃避行動を一定時間内に終えることを可能にしているということ。第2は、衝突回避ジャンプの回転に伴う時間遅れを補償するために、より大きな回転をする際には、網膜像の閾サイズをより小さくし、行動開始時間を早めることができるということです。現在、この閾サイズの制御が、本当に行動計画によるもので、視野の位置によってあらかじめ決まっているのではないということを証明するために、下図の様なセットアップで行動実験をすすめています。

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研究成果

  • Motor planning modulates sensory-motor control of collision avoidance behavior in the bullfrog, Rana catesbeiana. Hideki Nakagawa and Yuuya Nishida, Biology Open, Vol.1, 1094-1101, 2012
  • Collision-sensitive neurons in the optic tectum of the bullfrog, Rana catesbeiana. Hideki Nakagawa and Kang Hongjian, Journal of Neurophysiology, 104, 2487-2499, 2010
  • Input and output characteristics of collision avoidance behavior in the frog Rana catesbeiana. Keisuke Yamamoto, Maki Nakata and Hideki Nakagawa, Brain, Behavior and Evolution, 62, 201-211, 2003
  • 動物はどうやって、衝突を避けるのか? 中川秀樹、さまざまな神経系をもつ動物たち-神経系の比較生物学- 共立出版、5、p216-234, 2009

 

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