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倉田博之 研究室

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はじめに
私たちの身体を作る細胞は,2,3万の遺伝子をもち,多様な生物機能を発揮する。細胞の分裂,分化,信号伝達,遺伝子発現,代謝反応等はすべて生化学反応から成っている。21世紀になって,さまざまな細胞機能を遺伝子や生化学反応レベルで理解できるようになった。細胞全体を分子ネットワークマップとして記述して,いわゆる細胞の設計図を手に入れつつある。人間の頭の中で,膨大な数の生化学反応の振る舞いをひとつずつ辿っていくことは難しい。コンピュータの中で,生化学反応全体の振る舞い(細胞内の分子濃度のダイナミクス)を再現する技術が必要である。私たちは,そのような振る舞いをコンピュータシミュレーションを用いて予測して,その予測を生物学的実験で証明する(図1)。情報科学と生命工学の技術を駆使して,医療や環境問題の解決に貢献する(図1)。

研究目的と方法:医療・環境問題に貢献する生命情報工学

図1 研究目的と方法:医療・環境問題に貢献する生命情報工学

癌のシステム生物学
身体の細胞は,まわりの環境と協調しながら,与えられた役割を果たしている。増殖を指令する信号がくると,細胞分裂を始めるが,そうではないときは,そのままの状態を保つ。まわりの細胞と協調できずに,自分たちの細胞だけが急速に増殖していくことを癌化とよぶ。ひとつというよりは,多数の遺伝子の異常が積み重なって癌化にいたる。たとえば,癌化の原因として,増殖指令シグナルを受けとる受容体タンパク質や,受容体から増殖関連遺伝子群までのシグナル伝達経路に異常が発生して,細胞分裂を止められなくなる場合がある。コンピュータシミュレーションを用いて,癌細胞中で起こっている生化学反応ダイナミクスと正常細胞のそれを比較することによって,癌化の仕組みを理解する。同時に,癌を抑えるためにはどのような薬を開発すればよいのかを解明する。コンピュータシミュレーションやシステム工学の技術を用いて,複雑な分子ネットワークのレベルから癌の診断技術や治療薬を開発する(図2)。
癌関連ネットワークマップ
図2 癌関連ネットワークマップ
CADLIVEで描画
バイオエネルギー生産システムの設計
温暖化ガス排出の抑制は世界の最重要課題である。その対策として,化石燃料からバイオエネルギーへの転換がある。微生物の代謝能力を活用して,バイオマスからエタノールや水素を合成する技術を開発する。微生物は,複雑な生化学反応からなる細胞工場である。細胞中の分子ネットワークマップに基づいてコンピュータシミュレーションを行って,我々の望む細胞機能(エネルギー代謝)を設計・合成する。
コンピュータ上の細胞モデル
医療・環境問題に取り組む情報科学の基礎技術として,分子ネットワークレベルから細胞の振る舞い全体をコンピュータ上に再現するバーチャルセル(コンピュータ上の仮想現実の細胞)プロジェクトを実施している。工学のコンピュータ支援設計システムにヒントを得て,生命設計支援システムCADLIVE (Computer-Aided Design of LIVing systEms)を開発している(図3)。CADLIVEは,コンピュータとコミュニケーションをとりながら細胞中の分子ネットワークマップを描くプログラム,生体分子濃度のダイナミクスを計算するシミュレータを含む多数のソフトウエアから構成される。本研究室WEB上からだれでも自由に使うことができる(http://www.cadlive.jp)。
おわりに
生物機能を医療・環境問題解決のために応用するために,生命情報工学を開拓している。コンピュータと生物実験は研究教育の両輪である。生物実験は,生命情報工学科内の他研究室と協力して進めている。癌に関わる生物実験では,産業医科大学医学部と共同研究を実施する。関心のある方は,倉田にお尋ねください。皆さんの研究成果が人類の最重要課題である医療・環境問題に活かされることを期待する。
工学と同じように、細胞機能をコンピュータ上で設計・合成する:CADLIVE
図3 工学と同じように、細胞機能をコンピュータ上で設計・合成する:CADLIVE

最近の主な論文・書籍

倉田博之,宮野悟 (翻訳) Uri Alon(著者) , システム生物学入門,生物回路の設計原理,共立出版

Yousuke Nishio, Yoshihiro Usuda, Kazuhiko Matsui, Hiroyuki Kurata, Computer-aided rational design of the phosphotransferase system for enhanced glucose uptake in Escherichia coli, Mol Syst Biol, 4:160, 2008

Hiroyuki Kurata, Kentaro Inoue, Kazuhiro Maeda, Koichi Masaki, Yuki Shimokawa, Quanyu Zhao, Extended CADLIVE: a novel graphical notation for designing a biochemical network map that enables computational pathway analysis, Nucleic Acids Res 35:e134, 2007

Hiroyuki Kurata, Quanyu Zhao, Ryuichi Okuda, Kazuyuki Shimizu: Integration of enzyme activities into metabolic flux distributions by elementary mode analysis, BMC Syst Biol, 1:31, 2007

H. Kurata*, H. El Samad*, R. Iwasaki, H. Othake, J. C. Doyle, I. Grigorova, C. A. Gross, M. Khammash, Module-Based Analysis of Robustness Tradeoffs in the Heat Shock Response System PLoS Comp Biol, 2: e59, 2006 *Both contributed equally.

Hiroyuki Kurata, Kouichi Masaki, Yoshiyuki Sumida, Rei Iwasaki, CADLIVE Dynamic Simulator: Direct Link of Biochemical Networks to Dynamic Models, Genome Res, 15: 590-600, 2005

H. El-Samad*, H. Kurata*, J.C. Doyle, C. A. Gross, M. Khammash, Surviving heat shock: Control strategy for robustness and performance, Proc Natl Acad Sci U S A 102:2736-41, 2005 *Both contributed equally.

Weijiang Li and Hiroyuki Kurata, A Grid Layout Algorithm for Automatic Drawing of Biochemical Networks, Bioinformatics, 21: 2036-2042, 2005

Hiroyuki Kurata, Nana Matoba, Natsumi Shimizu, CADLIVE for constructing a large-scale biochemical network based on a simulation-directed notation and its application to yeast cell cycle, Nucleic Acids Res 31: 4071-4084, 2003

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