微生物からヒトまで、生物を構成する細胞は共通に生体膜に囲まれて外界から隔てられている。また、多くの生物が細胞内に持つ小器官も閉じた膜構造をそなえ、高度に組織化された役割分担を果たす。膜タンパク質は生体膜にあり、呼吸・代謝・膜輸送・情報伝達・細胞間相互作用などの生物学的過程で中心的な役割を果たす分子装置である。
生命の設計図であるDNAが直接指定するのはタンパク質である。最近のゲノム-プロジェクトの成果によって、膜タンパク質はこれまで考えられていた以上に質的にも量的にも重要であることが分かってきた。生命現象を分子レベルで実験的に研究する生物化学の分野が、歴史的にはまず、取り扱いの比較的やさしい可溶性蛋白質を対象に発展したのに対し、複雑な高次構造を構成する膜タンパク質の研究は遅れていた。しかし界面活性剤の開発や遺伝子工学的手法の発展など研究技術の進歩により、今や「しゅん」の研究分野となった。
多くの生物は、呼吸(いき)をすることによって「生き」ている。すなわち食物(有機物)を酸素O2 で酸化することによってエネルギーを獲得している。呼吸の中心的な機能も膜タンパク質の酵素複合体がになっている。これら複合体群は、酸化還元反応の連鎖に共役して水素イオンH+ を輸送することが本質的に重要である。当研究室では主に、高温環境下で生きる好熱菌や、食品生産や医療、発酵工学の面で重要なアミノ酸生産菌などを対象としている。近年、バシラス属好熱菌の新たな酸化酵素複合体を2つ同定・精製し、その性格を明らかにしてきた。
一方のシトクロムbo3 型シトクロムc 酸化酵素は 極限環境生物に特有のタイプの酵素であり、他方のシトクロムbd 型キノール酸化酵素は新しいサブファミリーとして最初に単離された。ともにめざましい特徴のあることが分かり、 エネルギー変換のしくみや分子進化を明らかにする上で重要である。またアミノ酸生産菌が、シトクロムc を融合したシトクロムbc 複合体と、酸性残基と塩基性残基に富む挿入ループを含む酸化酵素とからなる新規なタイプの呼吸鎖を持っていることも明らかにした。高度好熱菌や古細菌などにも手を広げ、さらにアミノ酸生産菌を遺伝子工学的に改変し菌体収量を向上させるなどの成果があがっている。
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